ネイルサロンの人件費率の目安は?歩合・固定給の決め方と赤字ライン
ネイルサロンの人件費の割合を、業界相場ではなく自店の粗利から逆算する方法を解説。人件費率の出し方、固定給・歩合の向き不向き、昇給を相談されたときの説明手順、最低賃金改定と社会保険の適用拡大の影響まで、オーナー向けにまとめました。
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ネイルサロンの人件費の割合は、業界の相場ではなく、自店の粗利から逆算して決めます。人件費に回せる額は「粗利−家賃などの費用−店に残したい利益」で、ここに給与と会社負担の社会保険料が収まるかどうかが赤字ラインです。給与の形は、固定給・歩合・固定+歩合のそれぞれに向き不向きがあり、どれを選んでもこの上限の中で設計します。スタッフに昇給を求められたときは、断る前に店の数字を一緒に見て、「いくら売上が増えれば昇給できるか」を示すと話が前に進みます。2026年10月からの最低賃金の改定と、社会保険の加入対象の拡大も、上限を計算し直すきっかけになります。
この記事が向いている人:スタッフを雇っていて、昇給の相談に答えられずに困っている方。歩合や固定給の決め方を見直したい方。人件費が利益を圧迫していると感じる方。 向いていない人:これから開業する方、ネイリストとして給与の相場を知りたい方。業務委託のネイリストとの契約については、業務委託で起きやすいトラブルと契約前の確認点で扱っています。この記事は、雇用しているスタッフの給与に絞ります。
ネイルサロンの人件費率とは?何で割って出すのか?
人件費率とは、「人件費÷売上×100」で出す割合です。売上のうち、どれだけが人の費用に使われているかを示します。
注意したいのは、人件費に何を入れるかです。次の項目をすべて入れます。
- 固定給(基本給)
- 歩合給
- 賞与・手当(交通費、資格手当など)
- 会社が負担する社会保険料
最後の社会保険料を忘れると、人件費率が実際より低く見えます。厚生労働省の特設サイトでは、健康保険料や厚生年金保険料などは「事業主と従業員が半分ずつ負担する仕組み」と説明されています。同サイトでは「従業員と同じ額を事業主も負担します」とされています。給与明細で引かれている保険料と同じくらいの額を、店も払っていると考えてください。
もう一つは、何で割るかです。店全体の人件費率は「店の人件費÷店の売上」です。スタッフ1人ごとに見るときは「そのスタッフの人件費÷そのスタッフの個人売上」で出します。昇給の相談に答えるときに使うのは、後者の数字です。
人件費はいくらまで出せる?許容額を逆算する式
「人件費率は何%が目安か」と考える前に、自店で人件費に回せる額を出します。家賃や材料費、広告費は店ごとに違うため、他店の%を当てはめても自店の赤字ラインは分からないからです。
スタッフ1人あたりで考える式は次のとおりです。
個人売上×歩合率+固定給+会社負担の社会保険料 ≦ 粗利のうち人件費に回せる額
右側の「人件費に回せる額」は、次の順番で出します。
- 個人売上から粗利を出す:粗利とは、売上から材料費などの「売上に比例してかかる費用」を引いた額です。
- 店の費用をスタッフ1人分に割り振る:家賃・予約媒体の月額・水道光熱費・決済手数料などを合計し、席数や稼働時間で割り振ります。
- 店に残したい額を決める:借入の返済、設備の買い替え、オーナー自身の取り分などに回す額です。
- 1から2と3を引く:残った額が、そのスタッフの人件費に回せる上限です。
記入例(数字はすべて例です)
| 項目 | 例の数字 | 自店の数字 |
|---|---|---|
| 個人売上(月) | 60万円 | |
| 材料費など(売上の10%とした例) | 6万円 | |
| 粗利 | 54万円 | |
| 店の費用の割り振り分 | 20万円 | |
| 店に残したい額 | 10万円 | |
| 人件費に回せる額 | 24万円 | |
| 固定給 | 18万円 | |
| 歩合(個人売上30万円を超えた分の10%とした例) | 3万円 | |
| 会社負担の社会保険料(例) | 3万円 | |
| 人件費の合計 | 24万円 | |
| このスタッフの人件費率 | 40%(24万÷60万) |
この例では、人件費の合計が上限ちょうどです。ここで固定給を1万円上げると、会社負担の社会保険料も少し増え、上限を超えます。つまり「今の売上のままでは、昇給すると店に残す分が減る」状態です。会社負担の社会保険料の実際の額は、加入している保険の保険料額表で確認してください。
店全体の利益がどこで消えているかを費目ごとに確かめたい方は、売上はあるのに利益が残らない原因もあわせて読んでください。
固定給・歩合・固定+歩合、どれが自店に合う?
給与の形は大きく3つです。どれが正解ということはなく、店の予約の入り方とスタッフの育ち方で選びます。
| 給与の形 | 向いている店 | 向いていない店 | オーナー側の注意点 |
|---|---|---|---|
| 固定給 | 予約が安定している店。育成中のスタッフが多い店 | 曜日や季節で売上の波が大きい店 | 暇な月も同じ額が出る。売上が下がると人件費率が一気に上がる |
| 歩合(割合が大きい形) | 指名客を持つスタッフが中心の店 | 新人が多い店。オーナーの指名が大半の店 | 雇用している以上、最低賃金を下回れない。新人は生活が不安定になり定着しにくい |
| 固定+歩合 | 育成中と指名を持つスタッフが混在する店 | 個人売上を記録する仕組みがない店 | 歩合が始まる売上の線(例では30万円)を、許容額の式から決める |
固定+歩合を選ぶときは、「歩合が始まる線」と「歩合率」を、許容額の式から決めます。線を低くしすぎると、売上が増えるほど店に残る額が減る形になります。式の右側(人件費に回せる額)が、売上が増えたときにどれだけ増えるかと見比べてください。
雇用しているスタッフに歩合を払う場合でも、時給に直して地域別最低賃金を下回っていないかを確認します。業務委託の場合は考え方が違うため、ここでは扱いません。
なぜ人件費が重くなるのか?暇な日のシフトの問題
人件費が重くなる原因は、給与の額そのものより、売上の少ない時間にも人がいることにある場合が多いです。
NBLの面談を担当する長尾亜矢は、2020年に出産を機に2店舗を事業売却して1店舗に戻したあと、再び大きな赤字を経験しました。暇な日でもスタッフの希望でシフトを入れる必要があり、スタッフが関心を持つのは店の売上より自分の給料でした。それは当然のことです。そこで、人件費を複数店舗で分散できることが利益を残すカギだと気づき、店舗展開を再開しています。
1店舗で人件費を下げようとすると、シフトを削るか給与を下げるしかなくなり、スタッフとの関係が苦しくなります。店舗が増えると、予約の多い店へ人を動かせるため、同じ人件費でも売上につながる時間を増やしやすくなります。展開を考える段階の方は、多店舗展開の進め方を参考にしてください。
昇給を相談されたら、どう説明すればよい?
スタッフが自分の給料に関心を持つのは当然です。断るか受けるかの二択にせず、数字を共有して条件を一緒に決めます。手順は次のとおりです。
- まず相談してくれたことを受け止める:その場で結論を出さず、「店の数字を確認して、◯日までに答える」と期限を伝えます。
- そのスタッフの許容額を計算する:上の記入表に、直近3か月の個人売上を入れます。1か月だけだと波に左右されます。
- 昇給に必要な個人売上を出す:例の数字では、固定給を1万円上げると、歩合と社会保険料の増加分を含めて、個人売上が月2万円ほど増えれば上限内に収まる計算です(例の数字での概算です)。
- 数字を見せて説明する:「上げたくない」ではなく、「この売上になれば、店が赤字にならずに上げられる」と伝えます。昇給の原資は、店の売上ではなく、そのスタッフの個人売上の伸びから出るという考え方です。
- 条件と時期を決める:「3か月平均の個人売上が◯万円を超えたら、固定給を◯円上げる」のように、基準と見直しの時期を決めます。次回予約の取り方や指名の増やし方など、売上を伸ばす方法も一緒に話します。
- 書面に残す:決めた条件は書面にします。賃金の決め方を変える場合は、雇用契約書や就業規則の見直しが必要になることがあるため、社会保険労務士に確認してください。
条件をスタッフ全員に共通の基準にしておくと、「あの人だけ上がった」という不満も起きにくくなります。
最低賃金の改定は、人件費にどう影響する?
厚生労働省の公表では、令和8年度(2026年度)の地域別最低賃金は全国加重平均で1,177円となり、前年度の1,121円から56円上がりました。引上げ額は都道府県ごとに54円から65円で、最高額は1,280円、最低額は1,085円です。
2026年10月時点で確認できる主な額は次のとおりです(厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金全国一覧」より)。
- 東京都:1,280円(令和8年10月1日発効、改定前1,226円)
- 大阪府:1,231円(令和8年10月1日発効、改定前1,177円)
- 福岡県:1,114円(令和8年10月4日発効、改定前1,057円)
発効日は都道府県ごとに、10月1日から12月2日までの間で異なります。自店のある都道府県の額と発効日は、一覧で確認してください。
影響を受けるのは、まず時給で働くスタッフです。例として、福岡県で最低賃金ちょうどの時給のスタッフが月80時間働く場合、57円の引上げで給与は月4,560円増えます(例の計算です)。社会保険に加入しているスタッフなら、会社負担の保険料もその分増えます。月給や固定+歩合のスタッフも、時給に直したときに最低賃金を下回らないかを確認します。厚生労働省の一覧ページには、最低賃金に関するセルフチェックシートも掲載されています。
社会保険の適用拡大で、何が変わる?
社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、パート・アルバイトの加入対象が段階的に広がっています。加入するスタッフが増えると、会社負担の保険料も増えるため、許容額の式を計算し直す必要があります。
厚生労働省の特設サイトによると、パート・アルバイトなど短時間で働く人の主な加入要件は次のとおりです。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 2か月を超えて雇用される見込みがある
- 学生ではない(一部例外あり)
- 勤め先の従業員数が基準以上(2027年9月までは51人以上)
賃金の要件(所定内賃金が月額8.8万円以上)は、同サイトで2026年10月に撤廃と案内されています(ページによって「撤廃予定」の表記もあるため、最新の扱いは年金事務所で確認してください)。企業規模の要件は、従業員数36〜50人の企業は2027年10月から、21〜35人は2029年10月から、11〜20人は2032年10月から、10人以下は2035年10月から対象になります。なお、フルタイムと、労働時間・日数がフルタイムの3/4以上の従業員は、すでに社会保険の対象とされています。
個人事業でサロンを営んでいる場合は扱いが異なります。同サイトでは、常時5人以上を使う個人事業所のうち法定17業種が適用対象で、理美容は17業種以外の業種に挙げられています。2029年10月からは業種に関わらず常時5人以上で対象になりますが、その時点ですでにある事業所は当分の間対象外とされています。ネイルサロンがどの扱いになるか、自店が対象になるかどうかは、年金事務所や専門家に確認してください。
人件費の設計を、自店の数字で学ぶには?
ここまでの式と手順は、自分で進められます。難しいのは、スタッフごとの条件を決めて、説明し、数か月続けることです。LINEで受け取れる「利益が残る店の診断シート」では、売上・来店数・人件費など11項目を入れると、月の利益の目安・予約枠の稼働率・売上に占める人件費・黒字に必要な来店数・新規1人あたりの広告費と、最初に手を付ける1つが分かります。計算は端末の中だけで行われます。
NBL(ネイルサロン経営者の学校)では、毎月の個別面談・動画・隔週のグループ勉強会で、人件費や給与の決め方を自店の数字に置き換えて学びます。参加前の個別面談は約30分・Zoomで、長尾亜矢が一人で担当しています。1期生の定員は8名です。
よくある質問
Q1. ネイルサロンの人件費率の目安は何%ですか?
A. 店ごとに家賃・材料費・広告費が違うため、相場の%をそのまま当てはめるのはおすすめしません。粗利から家賃などの費用と残したい利益を引いた額が「人件費に回せる額」で、これを売上で割ったものが自店の上限の目安になります。まず自店の数字で上限を出してください。
Q2. 人件費率はどう計算しますか?
A. 人件費率は「人件費÷売上×100」です。人件費には、固定給・歩合・賞与・手当に加えて、会社が負担する社会保険料も入れます。会社負担分を入れずに計算すると、実際より低く見えます。
Q3. 固定給と歩合、どちらがよいですか?
A. 予約が安定していて育成中のスタッフが多い店は固定給中心、指名客を持つスタッフが多い店は固定+歩合が組みやすい形です。雇用しているスタッフは、歩合の割合が大きくても最低賃金を下回れない点に注意します。どの形でも、人件費に回せる額の中に収まるかで判断します。
Q4. スタッフに昇給を求められたが、払うと赤字になります。どう説明すればよいですか?
A. 断るのではなく、店の数字を一緒に見て「昇給の原資は個人売上の伸びから出る」と説明します。いくら売上が増えれば昇給できるかを計算して示し、条件と時期を決めて書面に残します。賃金や雇用契約の変更は、社会保険労務士などの専門家に確認してください。
Q5. 最低賃金の改定や社会保険の適用拡大で、人件費はどう変わりますか?
A. 令和8年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1,177円となり、前年度から56円上がりました。時給のスタッフは労働時間に比例して人件費が増えます。社会保険はパート・アルバイトの加入対象が段階的に広がっており、加入すると会社負担の保険料が増えるため、人件費の上限に含めて計算し直します。
参照した一次資料
- 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
- 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金全国一覧」(PDF) https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001753404.pdf
- 厚生労働省「令和8年度最低賃金額答申」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75950.html
- 厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト「社会保険加入の要件」 https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jugyouin/taisho/
- 厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト「パート・アルバイトの方への社会保険の適用について」 https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/seido/tanjikan/
- 厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト「個人事業所で働く方への社会保険の適用について」 https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/seido/kojinjigyosyo/
- 厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト「手取り額の変化について」 https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jugyouin/henka/
(2026年10月22日閲覧。最低賃金・社会保険の制度は改定されることがあります。最新の内容は各機関にご確認ください。給与・社会保険・雇用契約の具体的な判断は、社会保険労務士・税理士・弁護士などの専門家に確認してください。)