ネイルサロンの値上げで客離れしない伝え方|時期・幅・告知文例
ネイルサロンの値上げで常連の客離れが怖いオーナー向けに、利益が変わらない離反率の計算式で値上げ幅を決める方法、上げ方の比較表、告知の時期と経路、そのまま使える告知文例、総額表示と二重価格表示の注意点を一次資料に基づいて解説します。
自店の数字で確かめるなら → LINEで「利益が残る店の診断シート」を受け取る
ネイルサロンの値上げで客離れを防ぐには、「何割まで離れても利益が変わらないか」を先に計算してから幅を決めることです。値上げ後は1回あたりの利益が増えるので、少し離れても利益が落ちない範囲があります。上げ方は全メニュー一律だけでなく、メニュー別・アートやオプションだけ・新規から先に、などから選べます。告知は、常連のお客様が新価格の前に一度は来店して直接聞ける時期に、口頭・掲示・予約時・LINEで同じ内容を伝えます。表示は税込の総額表示が義務で、旧価格と並べる表示には注意が要ります。
この記事が向いている人:材料費や人件費が上がり、値上げが必要だと分かっているのに、常連が離れるのが怖くて踏み切れないオーナー。前回の値上げから時間がたち、利益が薄くなっている方。 向いていない人:これから開業する方(開業時の価格設定は扱いません)、値上げではなく集客の方法を探している方。
ネイルサロンの値上げで、常連は本当に離れるのか?
離れる人が一人も出ない値上げは、まずありません。ただし、「離れる人が出る=損をする」ではありません。
値上げをすると、1回の来店で残るお金(粗利)が増えます。粗利とは、施術価格から材料費・決済手数料・歩合など、来店ごとにかかる費用(変動費)を引いた額です。1回あたりの粗利が増えれば、来店数が多少減っても、月の粗利の合計は変わらないことがあります。しかも来店数が減った分、予約枠に空きができ、その枠に新しいお客様を入れられます。
怖いのは、損になる境目を知らないまま値上げすることです。
値上げ幅は「何人離れても利益が同じか」で決める
境目は次の式で出せます。
利益が変わらない離反率 = 1 −(今の1回あたりの粗利 ÷ 値上げ後の1回あたりの粗利)
離反率とは、値上げ前と比べて減ってもよい来店数の割合です(固定費は変わらない前提)。
- 主力メニューの今の価格を書く:売上の多いメニューから1〜3つ選びます。
- 1回あたりの変動費を書く:材料費・消耗品、決済手数料、歩合給など。歩合や手数料のように価格に比例する費用は、値上げ後の価格で計算し直します。
- 今の粗利と、値上げ後の粗利を出す:価格−変動費です。
- 式に入れて、幅ごとの離反率を出す:5%・10%・15%など、いくつかの幅で比べます。
- 自店の常連の様子と比べる:出た割合より多くのお客様が離れそうか、を考えて幅を選びます。
以下は例です(架空の数字)。今の価格6,000円、1回あたりの変動費1,500円(価格に比例しない費用のみ)とします。
| 値上げ幅(例) | 値上げ後の価格(例) | 1回あたりの粗利(例) | 利益が変わらない離反率(例) |
|---|---|---|---|
| 値上げ前 | 6,000円 | 4,500円 | — |
| 5% | 6,300円 | 4,800円 | 約6.3% |
| 10% | 6,600円 | 5,100円 | 約11.8% |
| 15% | 6,900円 | 5,400円 | 約16.7% |
この例で10%上げた場合、来店数の減りが約11.8%より小さければ、月の粗利は値上げ前と同じか、それ以上になります。月200回の来店がある店なら、23回ほど減っても利益は変わらない計算です(例)。
月の利益そのものの考え方は、ネイルサロンで利益が残らない原因の記事で整理しています。
値上げの理由は、どう説明すればよい?
お客様に伝える理由は、「費用が上がった」という事実で十分です。その裏づけになる公的な数字があります。
- 人件費:厚生労働省によると、令和8年度の地域別最低賃金の答申は全国加重平均で1,177円となり、前年度の1,121円から56円の引上げです。改定後の額は、令和8年10月1日から12月2日までの間に都道府県ごとに順次発効します。自店の地域の額と発効日は、各都道府県の労働局で確認してください。
- 物価:総務省統計局の消費者物価指数(2026年8月分、2026年9月18日公表)では、総合指数が前年同月比1.9%の上昇、生鮮食品を除く総合指数が1.7%の上昇です。
数字はオーナー自身が納得するためのものです。お客様には「材料費や人件費の上昇が続いているため」と短く伝えれば足ります。
NBLの面談を担当する長尾亜矢は、2014年に開業し、2017年に2店舗目、2019年に3店舗目を出しました。2020年の出産を機に2店舗を事業売却して1店舗に戻したところ、再び大きな赤字になりました。暇な日でも、スタッフの希望でシフトを入れる必要があったからです。スタッフが関心を持つのは店の売上より自分の給料で、それは当然のことです。
人件費のように簡単には下げられない費用があるからこそ、価格の見直しも利益を残す手段の一つになります。
上げ方はどれを選ぶ?一律・メニュー別・オプション・新規先行の比較
値上げは「全メニューを同じ割合で」だけではありません。主な選択肢を比べます。
| 上げ方 | 向いている店 | 良い点 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 全メニュー一律 | どのメニューも費用が同じように上がっている店 | 説明が簡単。メニュー表の直しが一度で済む | 価格に敏感なお客様の多いメニューも上がる |
| メニュー別 | 材料費や施術時間がメニューごとに大きく違う店 | 費用が上がったメニューだけ上げられる | 理由をメニューごとに説明できるようにしておく |
| アート・オプション料金 | ベース価格を据え置きたい店 | 基本の価格が変わらず、常連の抵抗が小さい | 追加を選ぶ人が減ると効果が小さい。何がいくら上がるかを明記する |
| 新規から先に、常連は期限付きで従来価格 | 常連の比率が高く、離れるのが特に心配な店 | 常連に準備の時間を渡せる | 同じメニューで価格が2つになる。常連への説明と、全員をそろえる日の決定が要る |
新規から先に上げると、常連のお客様がメニュー表で新価格を見て「黙って上げるのか」と感じることがあります。掲載前に「〇月〇日まではこれまでの価格です」と直接伝え、期限を決めずに2つの価格を続けないようにします。
どの上げ方でも、離反率の計算はメニューごとに行います。
値上げの告知は、いつ・どこで・どう伝える?
時期の考え方は、「新価格が始まる前に、常連のお客様が一度は来店して直接聞ける」ことです。来店周期が3〜4週間の方が多い店なら、2か月ほど前から伝えると、ほとんどの方に施術中に話せます。来店周期が長いお客様の多い店は、その分早めます。
伝える経路は、次を組み合わせます。
- 施術中の口頭:常連の方には、まず口頭で伝えます。仕上がりを確認している落ち着いた時間が向いています。
- 店頭の掲示:受付から見える場所に開始日と新価格を掲示します。
- 予約時の案内:予約画面や確認メッセージに、開始日以降の予約が新価格になることを明記します。
- LINEなどのメッセージ:口頭で伝えられなかった方への補いとして送ります。
- ホームページ・SNSのメニュー表:開始日に差し替えます。掲載場所を一覧にし、古い価格を残さないようにします。
どの経路でも、開始日・対象メニュー・新価格を同じ内容で伝えます。
告知文の例(【 】の中を自店の内容に置き換えます)
例1:店頭・LINE向けの基本形
いつも【店名】をご利用いただき、ありがとうございます。 材料費や人件費の上昇が続いており、これまでの品質を保つため、【開始日】のご予約から料金を改定いたします。 改定後の料金は【メニュー名:新価格(税込)】です。 ご不明な点は、ご来店時やメッセージでお気軽にお尋ねください。今後ともよろしくお願いいたします。
例2:オプションだけを改定する場合
【開始日】のご予約から、【アート・オプション名】の料金を【新価格(税込)】に改定いたします。 ベースの料金【メニュー名】は変更ありません。 材料の仕入れ価格が上がっているための改定です。ご理解いただけますと幸いです。
例3:常連のお客様への個別メッセージ(新規から先に改定する場合)
【お名前】様、いつもご来店ありがとうございます。 【開始日】から新しくお越しになる方の料金を改定いたしますが、【お名前】様のご予約は【期限】までこれまでの料金で承ります。 【期限】以降のご予約からは、【新価格(税込)】となります。 先にお伝えしたく、ご連絡いたしました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
謝りすぎる文面は避け、理由は短く、開始日と価格ははっきり書きます。
価格表示で気をつけることは?総額表示と二重価格表示
総額表示:国税庁によると、事業者が消費者に対して前もって価格を表示する場合は、消費税を含めた税込価格の表示が義務付けられています。表示の媒体は問われません。政府広報オンラインでは、令和3年4月1日から義務付けられたこと、メニュー表・ホームページ・SNSなども対象であることが示されています。たとえば「11,000円」「11,000円(税込)」「11,000円(税抜価格10,000円)」のような表示です。口頭で伝える価格は対象外とされています。
二重価格表示:旧価格や「通常価格」と並べて安く見せる表示には注意が要ります。消費者庁の価格表示ガイドラインでは、過去の販売価格を比べる価格に使う場合、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」であるかが問われます。一般的な目安として、セール開始時点からさかのぼる8週間のうち、その価格で売っていた期間が過半を占めているか、などが示されています。値上げした直後に、まだほとんど売っていない新価格を「通常価格」として割引表示をすると、この考え方に照らして問題になるおそれがあります。
表示や税の扱いに迷う場合は、税理士・弁護士などの専門家や、最寄りの税務署・消費生活の相談窓口に確認してください。
値上げ後は「黒字に必要な来店数」を計算し直す
値上げをしたら、月に何回の来店があれば黒字になるかを計算し直します。値上げで1回あたりの粗利が増えるので、必要な来店数は下がります。
- 月の固定費を合計する:家賃、固定給と社会保険料、予約システムなどの月額、返済など。
- 値上げ後の1回あたりの粗利を出す:主力メニューの新価格から変動費を引きます。
- 固定費÷1回あたりの粗利で、黒字に必要な来店数を出す。
- 今の来店数と比べる:差が余裕です。空いた枠に新規をどれだけ入れるかの目安にもなります。
先ほどの例で、月の固定費を90万円とします(架空の数字)。値上げ前の粗利4,500円なら必要な来店数は200回、10%値上げ後の粗利5,100円なら約177回です。
LINEで受け取れる「利益が残る店の診断シート」では、売上・来店数・人件費など11項目を入れると、月の利益の目安・予約枠の稼働率・売上に占める人件費・黒字に必要な来店数・新規1人あたりの広告費の5つと、最初に手を付ける1つが分かります。計算は端末の中だけで行われます。値上げの前後で入れ直すと、変化を確かめられます。
値上げで空いた枠に新規を入れるときの費用の上限は、ネイルサロンの広告費の目安で考え方をまとめています。値上げしても売上が伸びない場合は、売上を3つの数字に分けて点検する方法も確認してください。
価格を「経営の数字」として学ぶには?
計算と告知は、この記事の手順で自分で進められます。迷いやすいのは、どの幅・どの上げ方を選ぶかの判断です。
NBL(ネイルサロン経営者の学校)では、毎月の個別面談、動画、隔週のグループ勉強会で、価格や人件費を自店の数字に置き換えて学びます。参加前の個別面談は約30分・Zoomで、面談は長尾亜矢が一人で担当します。1期生の定員は8名です。
よくある質問
Q1. ネイルサロンが値上げすると、常連のお客様は離れますか?
A. 一部のお客様が来店間隔を延ばしたり、離れたりすることはあり得ます。ただし、値上げ後は1回あたりの利益が増えるため、少し離れても月の利益は変わらない範囲があります。「何割までなら離れても利益が同じか」を先に計算し、その範囲に収まるように幅と伝え方を決めます。
Q2. ネイルサロンの値上げ幅はどう決めればよいですか?
A. 「利益が変わらない離反率=1−(今の1回あたりの粗利÷値上げ後の1回あたりの粗利)」で、幅ごとに何割まで離れてよいかを出します。粗利は価格から材料費・決済手数料・歩合などの変動費を引いた額です。出た割合と、自店の常連の様子を比べて幅を選びます。
Q3. 値上げのお知らせは、いつ、どこで伝えればよいですか?
A. 新しい価格が始まる前に、常連のお客様が少なくとも1回は来店して直接聞ける時期に伝えます。来店周期が3〜4週間の方が多い店なら、2か月ほど前が一つの考え方です。施術中の口頭、店頭の掲示、予約時の案内、LINEなどを組み合わせ、どの経路でも同じ日付・同じ価格を伝えます。
Q4. 新規のお客様だけ先に値上げしてもよいですか?
A. 選択肢の一つですが、同じメニューで新規と常連の価格が違う状態になります。常連のお客様には「いつまで従来の価格か」を先に説明しておかないと、メニュー表を見て不信感を持たれることがあります。期限を決めて、全員を新価格にそろえる日も決めておきます。
Q5. 値上げ後の価格は税込で表示しないといけませんか?旧価格と並べてもよいですか?
A. 消費者に価格を表示する場合は、消費税を含めた総額表示が義務付けられています(国税庁)。旧価格と並べて安く見せる表示は二重価格表示にあたり、消費者庁のガイドラインに照らして注意が必要です。判断に迷う場合は、税理士・弁護士などの専門家に確認してください。
参照した一次資料
- 厚生労働省「令和8年度最低賃金額答申」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75950.html
- 総務省統計局「消費者物価指数(CPI) 全国(最新の月次結果の概要)」 https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html
- 国税庁「No.6902 『総額表示』の義務付け」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6902.htm
- 政府広報オンライン「支払う金額が分かりやすく!令和3年4月から総額表示が義務化」 https://www.gov-online.go.jp/article/202104/entry-10238.html
- 消費者庁「二重価格表示」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/double_price
- 消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_35.pdf
(2026年10月22日閲覧。統計や制度の内容は閲覧時点のものです。最新の内容は各機関にご確認ください。)